ばらばらな運動から、
集団の流れが生まれる。
鳥の群れや動く細胞のように、自ら動くものが集まると、全体として揃った運動が現れることがあります。Toner–Tuモデルは、この集団運動を「密度」と「速度」の連続的な場で記述するモデルです。
ここで扱うのは、密度が変化できる2次元のモデルです。領域の左右と上下はつながっており、端から出た流れは反対側へ戻ります。壁のない空間で、運動の向きと密度の模様がどう育つかを考えます。
共通の向きが、自然に選ばれる
初期状態では、それぞれの場所の速度は小さく、向きもばらばらです。運動を育てる作用が減衰を上回ると、速度の振幅が大きくなります。一方、速度場を滑らかにする作用や移流を通じて、場所ごとの運動が影響し合います。その結果、広い範囲で向きが揃うことがあります。
方程式には「右へ進め」という指定はありません。全体が進む方向は、初期の小さな偏りや雑音から選ばれます。こうした現象を、自発的な秩序形成と呼びます。
速度が育つ条件
このモデルでは、速度を育てる係数は α(ρ) = a(ρ − ρc) です。aが正なら、局所密度がρcより高い場所では小さな速度が育ち、低い場所では減衰する傾向があります。
速さが際限なく増えない理由
−β|v|²v という項が、速い運動ほど強く抑えます。一様で雑音のない状態では、α > 0 のとき、運動の成長と抑制が釣り合う速さは √(α/β) です。
揃おうとする流れに、雑音が競合する
雑音は、速度の向きと大きさにランダムな揺らぎを加えます。弱い雑音では、揺らぎながらも揃った運動が続くことがあります。雑音が強くなると局所的な乱れが増え、全体の整列が弱くなる場合があります。
ただし、雑音を増やせば必ず一定の値で秩序が消える、というわけではありません。密度、運動の成長率、拡散、領域の大きさによって結果は変わります。有限の領域では、長時間かけて全体の進行方向が変わることもあります。
密度が運動を変え、運動が密度を変える
このモデルの特徴は、密度と速度が一緒に変化することです。流れが集まる場所では密度が増え、流れが広がる場所では密度が減ります。そして密度が変わると、運動を育てる係数αも変わります。
この循環によって、密度の濃淡が運動とともに変化します。条件によっては、密度の高い領域が移動したり、帯状の構造が現れたりする可能性があります。ただし、この簡略化したモデルで帯が必ず生じるわけではありません。
密度差を押し戻す作用
−c²∇ρ は、密度の高い側から低い側へ速度を変える圧力のような作用です。密度の集中に対抗し、密度と速度の揺らぎの伝播にも関わります。
細かい模様をならす作用
密度拡散Dρは密度の濃淡を、速度拡散Dvは速度の場所ごとの差を滑らかにします。移流は、それらの構造を流れに沿って運びます。
「よく動く」と「揃って動く」を見分ける
全体の整列を表す指標が、global polarization Pです。密度で重み付けした速度の合計を、密度で重み付けした速さの合計で割ります。
Pが1に近ければ、ほぼ同じ方向へ進んでいます。0に近ければ、全体の向きが打ち消し合っています。ほとんど動かない場合と、反対向きの流れが共存する場合は、どちらもPが低くなり得ます。平均速度を併せて見ると、その違いが分かります。
| 観測量 | 読み取れること |
|---|---|
| Polarization P | 全体の運動方向がどの程度揃っているか。密度の高い場所の運動ほど強く寄与します。 |
| Mean speed | 場所ごとの速さの平均。大きくても、全体が同じ方向に進むとは限りません。 |
| Density variance | 密度のむらの強さ。大きいほど濃淡が強く、模様の形や動きは速度場と併せて読み取ります。 |
| Mean density | 領域全体の平均密度。周期境界で密度の追加・除去がなければ保存されます。 |
| Pの時系列 | 整列が育つ過程、揺らぎ、秩序の持続。ただし、Pだけでは全体の進行方向の変化は分かりません。 |
色の変化と、物理的な変化を区別する
密度ヒートマップの自動色調整は、その時点の最小密度と最大密度に色を割り当てます。そのため、実際の密度差が小さくても、鮮やかな模様に見えることがあります。密度の集中を判断するには、色バーの数値と密度分散も確認する必要があります。
また、有限差分の計算には数値拡散があり、細かい構造を滑らかにする作用が加わります。模様や揺らぎの定量的な性質を調べるには、格子の細かさや時間刻みを変えて、結果がどの程度変わるかを確かめる必要があります。